心の鏡を見つめている子供たち

NPOスペシャルオリンピックス日本・神奈川スキー合宿より2017/3

 私は友人スーとペシャルオリンピックス日本・神奈川スキー合宿スプログラムに参加している。
スーはスペシャルオリンピックス・プログラムの参加は長い
もう20年近くアスリート(スペシャルオリンピックスではプログラムに参加する子供たちのこと)の子供たちと水泳やスキーの付き合いがある。
スペシャルオリンピックはケネディー大統領の妹のユーニス・ケネディー・シュライバーが発端となって始まった知的障害者の4年に一度の世界大会です。
 私はこのプログラムに参加して5年ぐらいたっていると思う。
私は北海道で少年期を育ったのでスキーは生活の一部だったので得意とは言えないけれど問題なくこなせるスポーツなのでスーにボランティアがいないから参加してとたのまれたのがきっかけだった。
今はアルペンスキー・コーチの資格まで取ってこのプログラムに参加している。

 実は年に3回あるスキープログラムに私とスーは今年の2回目はミャンマーに出かけていて参加していない。
そして2017年2月19日第2回目神奈川NOPスペシャルオリンピックス・スキー合宿最後の日の帰り道
私たちは送り迎えに神奈川県福祉バスを利用させてもいらっているがそのバスが帰り道に高速道路のトンネルで思わぬ事故を起こしてしまった。
とても大切な友人がこの事故の犠牲になり入院している。
私とスーはこのプログラムに参加する時には福祉バスに乗ると私とスーの座席がほぼ決まっている。
最後部の席の真ん中の席にスーが座りその前の左側の席が私の定位置なのである。
アスリートと家族の座席の位置もおおよそ決まっている。
今回の事故で犠牲になった人は後部座席に集中している。
もし、私とスーが参加していれば真っ先に犠牲になったのはスーだ!
そして私も犠牲になっていたと思われる。
私たちの先輩が最後部の席の近くでその犠牲になったのだから

 私はこのスキー合宿プログラムで知的障碍者のアスリートと一緒に生活しアルペンスキー・トレーニングをするのだ。
初めは距離が遠かったけれ今では彼らはストレートに身体や言葉をぶつけてくる。
アスリートの障害程度もさまざまである。
自閉症とダウン症を合併している重度のアスリートもいれば軽度のアスリートも年齢もそれぞれでもう40歳に近いアスリートまで様々だ。
私とスーは重度のアスリートと生活する度合いが多い。
一度自分の心に閉じこもるともう、その心をこちらに開いてもらうのにはとても時間がかかるしあの手この手と繰り出し労力もかかります。
たいていは時間が解決してくれますのでアスリートのそばにいて付き添うだけと最近は心得るようになりましたけれど

 この子たちは私たちの視点でものを見ていませんし聞いていません。
全体を見て判断はしないし多くの意見を聞いて判断をするとは違います。
全体の中からある点にだけ関心が行きやすく総合判断が苦手になります。
物事に集中して関心が行くためにとんでもない能力を発揮したりします。
例えば小田急線の駅の名前を新宿から小田原まですらすらとそらんじたり漫画の主人公の絵をあっという間に描き上げたりとすごい能力を発揮するのです。
でも、日本人特有の空気を読むなんてことは大の苦手です。
アジアの中でもあいまいさを美徳とする風習は日本特有の文化なのでしょうが自分の意見を口角泡を飛ばして述べる中国人をアジアの街かどで見ていて日本の子供たちの教育にも集団の中で自分の主張はしっかりと伝えるトレーニングはもう開始しなくては世界に取り残されると感じる私です。
この点は彼らのほうが国際人といえるかもしれません。

 この子たちは失敗をしてはいけないと強く考えています。
例えば道路を横断する時にも車に注意しなくてはいけないことはわかっています。
でも、車が走っていない道路では渡ることができますが車が見えると車がどの位置でどのスピードなら渡れるか?という判断は難しいのです。
いつもの道路ならあの電柱に車が来ていたら渡ってはいけないといえば理解できるが違う道路では状況が違うためその感覚が理解できない。
また一点に集中してしまうと他の物は見えない。
ボランティアの仕事はバスがパーキングエリアで停まると道路の安全確認とアスリートの誘導も仕事になる。
子供たちの心の中にはしてはいけないことが箇条書きで扉に張り付けてあるのだが自分の好きな電車が来た途端に箇条書きのことは忘れて扉を開いて走り出してしまう。
という私たちにもこのようなことはままあることでもあるが
一番の問題は失敗してはいけないと思いから委縮してしまうことだ。
しょっちゅう問題を起こすのであれはダメこれもダメと両親にも学校でも作業場でもいわれっぱなしだからスキー合宿に来た時ぐらいは自由にのびのびと共に楽しんでもらいたいと私とスーは思っている。
スキーはみんな大好きなので技量に合わせたコースで安全を確認して楽しく滑ってもらっている。
みんなうまくなってボーゲン(スキーをハの字に開いてすべる方法)ならどこだって滑れるから頼もしくなってきた。
もちろん上級者は私やスーが早すぎて滑りについていけないほどきれいな滑りをする。

 この子たちと生活を共にしてスキーを一緒に滑って私は痛切に感ずることがある。
無駄な時間が大切であるかということだ。
この子たちの時間の尺度は時計の時間ではなく心の時間なのである。
パジャマから服の着替えも食事もスキーの支度もこちらのスケージュール通りには進まない。
だから初めからそのつもりでゆとりをもって行動する。
といってもそううまく運ばないことも当たり前のように出てくる。
でも人間なんだものみんな機械と同じように動くことがおかしいのだ。
人は機械の歯車ではないのだから回り方が早かったり止まったり逆転したりそれがその人の人格であり個性だ。
時間だって同じだ。
試験に失敗して回り道する人も立ち止まって過去を振り返る人も探し物が見つからないでループしている人も色々である。
実は危険なのは失敗もなく一直線に最短時間で目標達成した人である。
最も挫折に弱いがこのタイプの人なのだ。
子供には旅をさせろというのはこの挫折と失敗かがどれほど人生に大切かということでしょう。
試合に負けての涙は人生に貴重なのです。
試験に失敗してくやし涙を流すことも挫折があって回り道することは人として成長には欠かせないと思うのです。
もし、まぐれに試験に受かったとしても本当の実力がない自分がその世界で生きていくほうがはるかに難しいかもしれないでしょう。
心の痛みは失敗したり他人から中傷されて得られるものでこのことを知らずに過ごすと他人を思いやる心が生まれない可能性があるので自分さえよければそれでいいという人生を送りかねないのです。

 これからの日本が世界に誇れるのは文化だと私は思っています。
洗濯機や冷蔵庫はもう中国製が主流だしパソコンやスマホだって台湾や韓国で私のスマホは中国製だし車だってあと何年かしたらかなり手ごわい韓国や中国という感じなのかも?
でも私(70歳)が子供のころ両親から漫画はダメといわれていたダメな漫画や一時代前の女子高生のミニスカートの制服ルックや目を強調した化粧は世界のファッションを圧巻している。
今の時代でも昔の時代でも社会に同調してきた歯車人間が実は日本をダメにしているのかもしれない。
戦後の日本は特殊な時代でアメリカの下請けで物を作れば売れた時代なので歯車として回ってれば右肩上がりに会社は大きくなったが今は市場にあった商品を開発しなくては売れない時代だ。
太平洋戦争の元には隣組という同調しない人間を排除するという組織があったし 戦争を長引かせた幕僚の多くは失敗もなく一直線に上り詰めたエリートといわれる人たちが多かったのだから

 これから日本を引っ張っていく人は無駄な時間を大いに過ごした人が必要になると私は思っている。
その人たちの悩んだ時間の中に解決の糸口があるのではと思うのです。
私の好きなビートルズのポールは夢の中にイエスタディのコードが浮かんでたといっていた。
イギリス・リバプールのロングヘア―の若者は当時の大人たちからはあんな子にはなるなと悪いレッテルを張られていた若者たちに過ぎなかったのだ。
当時の日本の大人たちも全く理解できない音楽と音楽評論家さえいっていたのにロングヘア―が悪の代名詞になっていた。
でも今ではスタンダードであり将来はクラシックの仲間入りをするのだろう。
日本は世界から見ると(ヨーロッパを中心とした)東の端にあたる。
人類が生まれた地点がアフリカだとしてもたどり着いた最終地点といっていいのかもしれない。
ということは世界各地で育った文化も形を変えながら日本にたどり着いたのだろう。
ラオスやタイの田舎で納豆や豆腐の原型を見るたびに熱い思いがわいてくる。
壺や皿の包み紙だった浮世絵がヨーロッパの作家を刺激したように日本の文化は世界に誇れる文化なのです。
当時の浮世絵は壊れないための陶器の包み紙の扱いだったのにヨーロッパの芸術家の心に火をつけたのだ。
でも当時の日本でこのことを理解した人間はいない。
当時の日本の一流といわれる人間には三流の扱いの浮世絵が世界の文化を震撼させているなど及びもつかなかったでしょう。

 私はアスリートの子供たちから本当に大切なものはなにか?
時間をかけて自分の心と向き合うことが大切なんだよ!と教えてもらっている。
この子たちが心に描いている中にはとんでもない宝物があるかもしれないのだ。
それは豊かな色彩の抽象画であるかもしれないしきらびやかなメロディーかもしれない。
優雅な踊りかもしれないし未来や過去の時空かもしれない。
わたしはそっとこの子たちの心をのぞき見したくなるのです。
私にも、夢の中にピアノコードが現れてくれないかな~

 所 輝美より